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夫婦系 [2020/10/17 07:35] moepapa |
夫婦系 [2024/11/01 14:50] (現在) moepapa |
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どうやら新婦は彼の“ゲーム漬け生活”を快く思っていなかったらしく、そこへ悪友がこの“サプライズ企画”を持ちかけたようです。 | どうやら新婦は彼の“ゲーム漬け生活”を快く思っていなかったらしく、そこへ悪友がこの“サプライズ企画”を持ちかけたようです。 | ||
企画の決行は奇しくも昨日、彼が今日という日に備えて式場に前泊している間でした。 | 企画の決行は奇しくも昨日、彼が今日という日に備えて式場に前泊している間でした。 | ||
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さえないサラリーマンの普通の一家がある。 | さえないサラリーマンの普通の一家がある。 | ||
かみさんにも、せがれにも言わないが、幸せを噛みしめている。 | かみさんにも、せがれにも言わないが、幸せを噛みしめている。 | ||
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+ | とても好きだったんだけれど、 | ||
+ | おっとりした人で、 | ||
+ | 神経質な私をいらいらさせることもあった。 | ||
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+ | でも夫は、仕事のことで不機嫌になり、 | ||
+ | なにも悪くない夫のことを | ||
+ | 私が邪険に取り扱っているときでも、 | ||
+ | いつも私のことを気遣ってくれる人だった。 | ||
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+ | 私が体調悪いときは、 | ||
+ | 仕事を途中で抜け出して帰宅し、 | ||
+ | その後仕事に戻って徹夜するような、 | ||
+ | 自分がどんなに無理しても | ||
+ | 私の面倒を見てくれる人だった。 | ||
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+ | 夫婦の家事分担は、 | ||
+ | 私も仕事を持っていたので、 | ||
+ | 食事・洗濯等は私がやる代わりに、 | ||
+ | 使用した食器の洗浄は | ||
+ | 夫の担当ということになっていた。 | ||
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+ | 当時夫は、連日日が替わってから | ||
+ | 家に帰るほどの激務が, | ||
+ | でも文句も言わず、 | ||
+ | 深夜私が寝付いた後に帰宅して、 | ||
+ | 私が用意しておいた食事を食べ、 | ||
+ | 夜中に私の分も含めて | ||
+ | ちゃんと食器を洗ってくれていた。 | ||
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+ | そんなある朝、私が起きると、 | ||
+ | 台所に洗っていないままの食器が放置されていた。 | ||
+ | きれい好き、整理整頓好きだった私は、 | ||
+ | 我慢が出来ず、その後起きてきた夫をなじった。 | ||
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+ | 「ちゃんと洗っておくって約束したでしょ! | ||
+ | なんでやってないの!!」 | ||
+ | 夫は「ごめん、やるつもりだったんだよ。 | ||
+ | でももう3時前だったし、 | ||
+ | 疲れてベッドに横になってたら、 寝ちゃってて。」 | ||
+ | 「まだ時間あるから出勤前にやっておくよ」 | ||
+ | と謝ってきた。 | ||
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+ | 私は、「言い過ぎた!ごめん!」 | ||
+ | と思ったが、なぜか態度には出せず | ||
+ | 「私が帰る前にちゃんと洗っておいてね。 | ||
+ | でないともうご飯作ってあげないよ。」 | ||
+ | と言い放った。 | ||
+ | もちろん、冗談のつもりだった。 | ||
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+ | 夫は私よりも出勤時間が遅いので、 | ||
+ | 出勤する私をドアまで見送り、 | ||
+ | キスをするのが毎朝の習慣だったが、 | ||
+ | 私はキスをしたそうな夫を無視して、 | ||
+ | 「じゃあ、ちゃんと洗っておいてね」 | ||
+ | と言い捨てて出勤した。 | ||
+ | |||
+ | 夫はドアの向こうで、笑顔で、 | ||
+ | でもほんの少し悲しそうな表情で | ||
+ | 「わかったよ、気をつけてね。」 | ||
+ | と手を振っていた。 | ||
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+ | それが、生きている夫を見た最後だった。 | ||
+ | |||
+ | その日の午後、会社に電話が入った。 | ||
+ | 夫が事故にあったという報せだった。 | ||
+ | 病院にかけつけたとき、 | ||
+ | すでに夫は、この世の人ではなかった・・・・。 | ||
+ | 冷え性の私の身体を、 | ||
+ | ベッドの中でいつもあっためてくれていた夫の手、 | ||
+ | その手を握り締めたが、とても冷たかった。 | ||
+ | |||
+ | あまりのショックに何も考えられず、 | ||
+ | 呆然としたまま家に帰った。 | ||
+ | ふと台所を見ると、今朝洗ってなかった食器が、 | ||
+ | 綺麗に洗われて、水切りかごにならべられていた。 | ||
+ | |||
+ | 涙があふれ出てきた。 | ||
+ | 最後に見たドアの向こうの夫の顔、 | ||
+ | そしてあの冷たい手。 | ||
+ | その二つだけを思い出しながら、 | ||
+ | 何時間も、何時間も、ひたすらすすり泣いた・・・・。 |